佐枝節炸裂! 

 噂の「サイっち本」 

このコーナーでは、佐枝せつこがジャンルにとらわれず、人生に再スイッチが入りそうな本をご紹介していきます。
                   

「間抜けの構造」  

ビートたけし 著/新潮新書

「私たち夫婦は漫才をやっているみたいってよく言われるのよ」と嬉しそうに話す奥さんがいた。漫才では相方との間や呼吸が何より大事。同じ相方とやってものになるまで最低十年はかかるという。夫婦で漫才ができるとは、息がぴったりの仲の良い夫婦ということになる。ところがそれを聞いていた女性が、「夫婦漫才って離婚した夫婦がやるともっと面白くなるそうですね」と返したからその場の雰囲気が凍りついた。

世の中には言わなければいいことをつい口にしてしまう人がいる。場の空気が読めずトンデモ発言をする人もいる。こういう間の悪い人を世間では「間抜け」と呼ぶ。

例えば……

「最低でも県外」と発言して日米の関係をこじらせた元総理大臣。
「私は50年後の日本の未来を真剣に考えているんです!」と選挙演説をする80歳の区議会議員候補。風俗の待合室で名刺交換をして、仕事の話を始めるお客。

“間抜け”に共通しているのは、自分がどんな状況にいるのか客観的に見ることができないという点。

しかし、ときには「世の中、間抜けばかりだ」と笑っていられないほど、自分も間抜けかもと不安になる。不安にかられたなら、本書で「間とは何か」を学ぶのもいい。

「人生で適度に『間』があったからよかった」と著者は山あり谷ありの人生を振り返っている。

最初の人生の間は大学を辞めてブラブラしていた時期。
「当時、浅草に行こうなんてやつは周りにはいなかった。世間一般の出世コースから降りて、ちゃんと落ちこぼれたかった」という潔さ。
浅草にいれば、大成できなくても「浅草芸人」という肩書きがつくから、野垂れ死にしても浅草芸人として死ねる。何がなんでも普通の人にはなりたくなかったという気概は、団塊世代独特のもののようだ。

著者は47歳の時にバイク事故を起こしている。「死にかけたとき、一番恐ろしかったのは、目が覚めたときに違う環境で違うものに生まれ変わってしまうことだった」と語る。自分が別の世界の人間だったと分かった瞬間、今まで生きてきた人生は夢だったことになり、それまでの人生は一瞬で終わる。これが一番怖かったという。

「人生というのは『生と死』の間でしかない。間がどうやって生じるかということは絶対にわからない。だからこそ間を大事にしようぜ」という著者の言葉は、生死をさまよったからこそたどり着いた結論だと思う。

本書は芸人・映画監督としてこれまでずっと「間」と格闘してきたビートたけしが語る最高の哲学書である。
働きたくない。けれど何かをやりたいわけじゃない。そんなあなたにぜひ読んでほしい。(佐枝せつこ)                       

<Sairuma!(さいるま)とは>
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