佐枝節炸裂!
噂の「サイっち本」
このコーナーでは、佐枝せつこがジャンルにとらわれず、人生に再スイッチが入りそうな本をご紹介していきます。

セレンディピティの探求
澤泉重一・片井修 著
角川学芸出版
巷では「すぐに結果がでる」と錯覚させるような思考法が散乱している。ハウツー本をサクサク読んで、すぐに結果がでれば、こんな楽なことはない。
「セレンディピティ」とは、偶然に思いがけないものを発見する能力のこと。本書の著者・澤泉重一氏は、「偶然」に際してそこに隠れている何かを「察知力」で発見につなげることから「偶察力」と紹介している。
科学上の大きな発見には、他の人からはつまらないと思われているような些細なことを発見者が察知して、何年もかけて意義あるものにしたという事例が多々あるという。フレミングのペニシリンも培養皿に青カビを発生させてしまったことにより、世紀の発見につながったのだとか。
ただの偶然をどう幸運な偶然に導くのか。澤泉氏によれば、偶然目の前に現れたものを、「見過ごそう」となるのか「記憶にとどめよう」となるかは、短時間に無意識に行われるそうだ。
そこで自分にとって必要なものを察知して、記憶にとどめるにはどうすればいいのか?
オヤッ!と察知してから思いがけない発見に至るまでの過程、偶然を増やす脳との関係、カードを使用してセレンディピティの能力を向上させる訓練法も紹介されているのだが、記憶力を高める訓練のようなわけにはいかない。
情報収集も人間関係も「いる」「いらない」と簡単に仕分けできるようなものではないからだ。本書の言葉を借りれば、我々の興味を持つ対象や出来事にまつわる情報や知識をどのように統合してゆくのか。その統合には重層的な構造が必然的に含まれてくる。
サクサク読めてしまうハウツー本に慣れ親しんだ方には、正直難解な指南書といえるかもしれない。しかし、自分が身につけたい能力の本質を理解することから始めなければ、どんな能力も身につかない。
まずは腰を据えて、多方面からアプローチをかけるセレンディピティの研究本を手にして頂きたい。些細な察知力でも身に付けば、職場でも日常生活の中でも、偶然目の前に現れたものを幸運なものへと導くことができるかもしれない。
(佐枝せつこ)