佐枝節炸裂! 

 噂の「サイっち本」 

このコーナーでは、佐枝せつこがジャンルにとらわれず、人生に再スイッチが入りそうな本をご紹介していきます。

二葉亭四迷 著  新潮文庫

 二葉亭四迷の名前は国語の教科書にも出てくるのでご存知の方は多いと思う。

筆名の由来は、処女作「浮雲」が納得の行かない出来栄えだったので、自身を「くたばってしまえ」と自嘲してつけたという説もある。しかし、作者が納得がいかずとも、「浮雲」は日本初の言文一致体で書かれた近代小説の先駆けであることには間違いない。

 

 ストーリーは、静岡から東京にでてきた主人公・内海文三が苦学の末に官吏の最末端の職についたところから始まる。文三は美しい従姉妹のお勢に思いを寄せ、叔母のお政も文三をお勢の婿にと考えていたのに、文三が上司に取り入ることができずに失職した途端、露骨に冷たくなる。おまけに家に訪ねてくる同僚の本田が上司にうまく取り入り失職を免れたと知ると、お勢に本田はどうだと勧め、お勢までも本田に心を動かすようになる。江戸の庶民生活の延長で生きているお政は無論、明治の教育は受けているが流行や人の意見に流されやすいお勢までも、結婚相手には稼ぎのある男が一番だと思い始める。

 

 明治20年頃の日本の話であるが、登場人物の人間性は平成の今と大して変わりはない。最近、筆者が知り合った50代の独身女性が結婚相手の条件にまずは経済力をあげたのには驚いた。また、どこかの国のプリンセスのお相手も経済力がないことで国民からの賛同は得られていない。やはりいつの時代も結婚相手に経済力は不可欠なようだ。

 

 とはいえ、本作では経済力を得るには出世しなければならず、出世するには上司に媚びなければならない。文三は、上司に媚びる卑しい人間が世の中ではトントン拍子に出世し、自分のような理想を抱く人間がなぜ没落していくのか、と、社会の不条理に悩み、どう生きればいいのかと苦悩するのである。

 

 今の世の中、ネットでも誌面上でも「生き残るのは上司へのゴマすりのうまい人」などというコピーは頻繁に見かけるし、嫌われる嫌われないは別にして、「ゴマすり=出世しやすい」は誰もが承知していることといえるだろう。それを悶々と悩む文三に、思わず私は「所詮人の世の中なんて百年たっても変わらないのだから、さっさと理想を捨てて、処世術を身につけなさい」と叫びたくなる。

 

あなたたなら、この悩める明治の青年にどんなアドバイスをしてあげられるだろうか?

 

 若い頃に読んだ方も、まだ読んだことのない方も、主人公の苦悩を解消するにはどうすればよいかを考えながら読んでみるのも一興かと思う。明治の青年に喝を入れることで、あなたの人生に再スイッチが入るかもしれない。ぜひお試しあれ。

(佐枝せつこ)

<Sairuma!(さいるま)とは>
日々の生活を彩る+末永くお届けできるようにとの願いと覚悟を込めて「彩る+ル・マン/24時間耐久レース」から「Sairuma!」と命名しました。